切削工具は様々な要因で摩耗が進んだり、欠けやすくなったりします。トラブルが起きるようになれば加工精度が落ちるほか、作業効率が悪化しかねません。ドリルを用いる際は、加工で起こりやすいトラブルを把握し、適切に対策を講じる必要があります。
このコラムでは、ドリル加工で起こりやすいトラブルと、ドリルが欠ける原因について解説しています。トラブルを減らす方法にも触れているので、ぜひ最後までご覧ください。
ドリル加工で起こりがちなトラブル
まずは、ドリル加工で起こりがちなトラブルを確認しておきましょう。
折損
加工中にドリルが破断してしまう現象で、突発的に起きるため作業の中断やワークの損傷を招きます。次のような複数の要因が絡んで発生することが多いです。
- 過大な切削抵抗
- 被削材の硬さ
- 切りくずの排出不良
- 工具の取り付け不良 など
小径ドリルや深穴加工では、ドリル自体が細いために折れやすく、送り過ぎ、突発的な負荷の増加などが要因になりやすいです。また高硬度のドリルは衝撃に弱く、折損リスクが高まる傾向にあります。
折損は突発的に生じますが、見た目では判断しにくい初期兆候もあるため、加工音や切りくずの変化に注意することが重要です。
チッピング
ドリルの先端部や刃先が部分的に微細な欠けを起こす現象です。目に見えにくい欠損が多いですが、切削性能に大きな影響を与えます。
超硬ドリルのように硬度が高く靭性の低い工具で発生しやすく、被削材が硬い場合や断続切削、振動を伴う加工条件下では特にリスクが高まります。チッピングが発生すると、切れ味が落ちることで加工面の仕上がりが荒れたり、加工音が変化したりするのが特徴です。
初期の微細な欠けが進行すると、やがて大きな欠損や折損へと発展することもあります。刃先に付着した切削熱の蓄積や溶着物が剥がれる際に、刃先が一緒に剥がれてしまうケースも珍しくありません。
穴が曲がる
ドリル加工で発生する穴の曲がりは、深穴加工や小径ドリルで多く見られるトラブルです。本来まっすぐな筒状の穴が開くはずが、ドリルの進行方向が逸れることで曲がった穴になってしまいます。
よくある原因として、ドリル刃先の左右の高さの違いや侵入による振動などが挙げられます。ワークの表面が斜めになっている、もみつけの角度が適切でないといった場合にも、ドリルが横方向に流れやすいです。
剛性が低いドリルは加工中にたわんで曲がりやすく、これも穴曲がりに繋がります。
加工面が荒れる
加工後の穴の内面や底面が滑らかでなく、ザラザラした状態になることがあります。こうした事態はドリルの切削性能が低下している、振動・切削熱・送り速度などに問題があるといった場合に発生しがちです。
ドリル刃先の摩耗や欠けによって切れ味が落ちると、金属を削り潰すような状態になり、切りくずも細かくなって加工面に傷を残します。これは工具の寿命末期が近くなると特に発生しやすく、刃先の滑りや不安定な送りも手伝って粗さが悪化します。
ドリルが欠けてしまう原因と対策
ドリルが欠けてしまったり折れてしまったりする原因は多岐にわたります。考えられる原因を知り、適切に対策しましょう。
切削条件が不適切である
ドリルが欠ける原因の1つに、切削条件が不適切であることが挙げられます。切削速度(回転数)や送り速度が速すぎると、刃先に過大な負荷や摩擦熱がかかり欠けやすくなります。
硬度が高く靭性の低い工具では、わずかな条件のズレでもチッピングや損傷に繋がりかねません。また、切込み量が多すぎると切りくずの排出がうまくいかず、刃先に付着するなどして過剰な抵抗が発生します。
初期に設定した切削条件はそのままにせず、被削材や工具の状態に応じた最適な条件に調整することが欠け防止のポイントです。
ドリルが摩耗している
刃先は使用するたびに摩耗していきますが、そのまま使い続ければ切削能力が落ち、抵抗が増加します。目に見えにくい初期摩耗は見逃されがちで、次のような兆候を見落とすと、破損リスクが高まります。
- 加工中の音が変わった
- 切りくずの色や形が不自然である など
摩耗によって刃の角が丸くなると食いつきが悪くなり、過剰な負荷が集中しやすくなるため、ドリルの材質や用途に応じたメンテナンスサイクルの管理が重要です。
長時間連続で稼働する現場では、定期的な摩耗チェックと再研磨のタイミングを見極める必要があります。
ワークの固定不足
ワークがしっかり固定されていない状態でドリル加工を行うと、切削中に動いたりビビリが発生したりして、ドリルの刃先に偏った負荷がかかります。こうした不均一な応力は工具にとって危険であり、突然の欠けや折損を引き起こす直接的な原因になります。
薄板、小型ワーク、複雑な形状の部品などは、適切な治具やクランプが使われていないと、ワークが逃げてドリルが横方向から無理に押され、欠けが発生しやすいです。
こうした事態を防ぐためには、ワークが全方向から均一に固定されているかを確認し、振動やズレが生じにくい環境を整える必要があります。
切りくずの排出不良
切りくずがスムーズに排出されないとドリルの溝に詰まり、欠けの原因になります。特に深穴加工や粘り気のある被削材は、ドリルとの間に噛み込みやすいため要注意です。切りくずの排出不良を防ぐため、以下の点に気を配りましょう。
- 切削速度、送りの設定
- クーラントの設定
- メンテナンスのタイミング
適切な設定で刃先への負荷を軽減するほか、必要に応じて再研磨を検討してください。切りくずトラブルを防ぐだけでなく、工具寿命も延ばせます。
振れ・センターずれ
ドリルは外周振れによってたわみやすくなりますが、振れが大きければ偏った負荷がかかり、欠けや折損の原因になります。適切に振れ測定を実施し、取り付け誤差は推奨値以下に設定しましょう。
ドリル先端にはチゼルエッジという刃のない部分があり、いきなり加工を始めると、ドリルが滑ってしまいます。センタードリルを用いるなどして切削位置を正しく設定すれば、加工精度を高め、ドリルへの負荷を抑えられます。
不適切なドリル材質や種類
切削条件を整えていても、ドリルの材質や種類が被削材に合っていなければ、欠けが発生しやすくなります。例えば、高硬度の被削材を一般的なハイス鋼ドリルで加工しようとすると、刃先の異常摩耗や欠けが生じやすいです。
ドリルの種類によっても向いている加工が変わるため、次のように目的に合わせたドリルを選ぶ必要があります。
- 油穴付きドリル:切削発熱を抑えて切りくずの排出をスムーズにする
- テーパードリル:鉄骨、鋳鉄、非鉄金属などの穴あけに向いており平行切削が可能
- コアドリル:中心部に刃がないドリルで円筒状の穴あけに用いる
加工に使用するドリルは、被削材の性質と加工内容に応じて慎重に選びましょう。
ドリルのトラブルを減らすためには
欠けをはじめとするドリルのトラブルを未然に防ぐには、被削材に合った工具の選定が重要です。定期的に摩耗状況をチェックし、適切に交換、再研磨を行うことも意識しましょう。
切削速度と送り速度、クーラントを正しく設定して、焼き付きを防ぐことも大切です。ドリルメーカーが提供する切削条件表を参考に切削条件を検討しましょう。
トラブルが多発する、または解決策がわからない場合は、工具メーカーや専門業者に相談するのがおすすめです。実際の加工条件を伝えることで、より適切な製品の提案や設備の改善案を受けられます。
ドリルの欠けを防止!適切な設定で作業効率UP
ドリルの刃先やチゼル部は加工によって欠けることがありますが、放置すれば加工精度の悪化やドリルの折損に繋がります。欠けの原因としては不適切な切削条件や切りくずの排出不良などが挙げられますが、適切に対策することでトラブルの発生を抑えることが可能です。
切削条件を正しく設定するほか、適切な頻度でのメンテナンスや再研磨を行いましょう。必要に応じて工具メーカーや業者に相談することが、作業効率の向上に寄与します。
この記事の執筆者
特殊切削工具メーカー比較サイト編集部
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