特殊切削工具を選定する上で、材質は非常に重要なポイントとなります。特殊切削工具はPCDやセラミックスなど様々な材質で作られますが、中でも最も代表的な材質として挙げられるのが超硬です。
今回のコラムでは、超硬工具の特徴やメリット、デメリットなどについて詳しく解説していきます。超硬と比較されることが多い材質であるハイス(高速度工具鋼)との違いについても触れていますので、ぜひ参考にしてみてください。
超硬工具とは
超硬工具とは、高い硬度と耐摩耗性を備えた材質である超硬合金で作られた切削工具のことです。超硬合金は硬質の金属炭化物や鉄系金属で構成される合金を指し、主成分としてタングステンカーバイド(炭化タングステン)が知られています。
炭化タングステンは融点が高く、溶かし固めて形を作ることができません。そのため、金属粉末をプレスして成型し、焼き固める粉末冶金法という製法で作られます。
超硬は硬度と靭性(粘り強さ・割れにくさ)のバランスが良く、ドリルやエンドミルを始めとする幅広い切削工具に用いられています。幅広い被削材に対応できるほか、工具寿命が長く、生産性の向上とコスト削減の両立が期待できます。
超硬の種類
超硬合金はタングステンカーバイド(WC)をベースに、結合剤としてコバルト(Co)を焼結して作られることが一般的です。加えて、以下のような要素を調整することで、硬度や耐摩耗性、靭性などのバランスを整えることができます。
- タングステンカーバイドの粒子サイズや形状
- コバルトの含有量
- 添加する原料 ※クロム(Cr)・ニオブ(Nb)・チタン(Ti)など
超硬を材質として作られる切削工具は、多様な被削材に対応するため、先述の要素を調整した以下の種類に分けられています。それぞれに識別色が指定されており、見た目で判別できるよう工具の一部が塗られていることが一般的です。
識別色 | 特徴 | |
---|---|---|
K種 | 赤 | ・鋳鉄や非鉄金属の切削で使われる材質 ・靭性に優れる |
P種 | 青 | ・鋼材の切削で使われる材質 ・高速加工に適している |
M種 | 黄 | ・ステンレス・鋳鉄などの切削にも対応可能な材質 ・性能はK種とP種の中間にあたる |
N種 | 緑 | 非鉄金属、アルミニウム合金の加工に適している |
S種 | 茶 | チタン合金、耐熱合金など熱伝導率の悪い被削材に適している |
H種 | 灰 | 高硬度材料や焼入れ鋼などの加工に用いられる |
このほか、より粒子が細かい炭化タングステンを用いて作られる超微粒子超硬合金(Z種)は、一般的な超硬に比べて靭性や耐久性、耐摩耗性が優れているとされています。
それぞれの性質や相性の良い被削材を踏まえ、加工条件と照らし合わせながら適切な種類を選択することが大切です。
超硬工具のメリット
超硬工具のメリットとして、以下の3点が挙げられます。
耐久性・耐摩耗性に優れている
タングステンカーバイドを主成分とする超硬工具は硬度が高いのが特徴で、長時間の連続切削にも耐えられます。さらに摩耗性が高いため、硬い被削材の加工においても精度を長期間安定させることが可能です。
頻繁に買い替えたり再研磨したりする必要がないため、コストを抑えられる点も強みです。
高速切削が可能である
超硬工具は耐熱性に優れており、高温環境下でも安定した性能を維持できます。そのため高速切削が可能であり、加工時間の短縮と生産効率の大幅な向上を実現できるでしょう。
先述の通り摩耗による変形や欠損も少ないため、工具寿命と加工スピードの両立ができる選択肢だといえます。
耐溶着性が高い
被削材が柔らかい場合や高速加工を実施する際は特に、切削時の摩擦熱によってワークの一部が工具に付着してしまうことがあります。こうした現象は溶着と呼ばれ、刃先の欠損や加工精度の低下に繋がりかねません。
超硬工具は耐溶着性が高いため、熱による溶着が起こりやすいアルミニウムや銅などを加工する際にも、加工面の荒れや寸法ズレを防止できます。
超硬工具のデメリット
先述したようなメリットがある一方で、以下のようなデメリットにも留意しておかなければなりません。
- 衝撃や振動に弱い
- 高額になりやすい
衝撃や振動に弱い
超硬工具は耐摩耗性や耐熱性に優れる一方で靭性が低いため、衝撃や振動に弱いという特性があります。そのため、加工中に突発的な負荷がかかってチッピングが発生する、切りくずの排出不良や食い込みが生じた際に折損するといったリスクが比較的高いです。
切削条件の最適化が不十分だと、超硬工具本来の性能を発揮できず、摩耗や破損を招いてしまうため注意しなければなりません。
高額になりやすい
超硬工具は希少価値の高い原材料を使用しており、さらに高度な技術を用いて加工しているため製造コストが高く、工具自体の価格も高めに設定されています。
微細加工や難削材に対応した特殊な形状の製品や、用途に応じたコーティング処理が施された工具の場合、1本あたりの価格が数千~数万円になることも珍しくありません。
超硬は寿命が長く高い加工精度が期待できるため、長期的な費用対効果は大きいですが、少量生産や予算に制約のある現場では、初期費用がネックになることもあるでしょう。
超硬工具とハイス工具の違い
超硬と比較されることの多い材質として挙げられるのが、ハイス(高速度工具鋼)です。ここからは、超硬工具とハイス工具の違いについて解説していきます。
超硬工具はハイスに比べて硬度や耐摩耗性が高く、高速回転での加工や難削材への対応を得意としています。高い精度が求められる加工においては、摩耗しにくい超硬が選ばれることが多いです。
ただし、ハイスと比べて靭性が低く突発的な衝撃に弱いため、落下や衝突・継続的な加工によって破損しやすいのが難点だと言えます。
ハイスは鋼にタングステンやモリブデンなどの金属元素を添加した合金。靭性が高く振動や折れ、欠けに強い一方で、超硬に比べると硬度は低いです。
超硬工具の用途
超硬工具は鉄鋼や非鉄金属、樹脂、炭素繊維など様々なワークを高精度かつ高速で加工できるため、製造業全般で幅広く使用されています。特に、わずかな誤差が製品の性能に大きく影響する以下のような業界において重宝されることが多いです。
- 自動車部品
- 航空宇宙産業
- 精密機器・医療機器
航空宇宙産業で多く用いられるチタン合金やニッケル基合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は軽量で強度がある反面、工具に大きな負荷を与えます。一般的な切削工具では対応が困難な被削材を高精度で加工する必要があり、超硬工具の活用が不可欠です。
チタンやステンレスなどの硬質材料が使われる医療器具の製造においても、耐摩耗性と切れ味を兼ね備えた超硬で作られた切削工具が活躍します。
超硬工具は加工に見合った選択が大切
耐摩耗性や耐熱性に優れ、加工精度、生産効率の向上に寄与してくれる超硬工具は、様々な業界の製造現場で活躍しています。
硬度が高く、長期間精度を保って使用できるのが強みである一方で、突発的な衝撃に弱い、高額になりやすいといったデメリットには留意しておかなければなりません。
切削工具の材質には、超硬の他にも、ハイスやPCD、単結晶ダイヤモンドなど様々な種類が存在します。被削材や加工条件、費やせる費用などを踏まえて最適な材質を選択することが重要です。
この記事の執筆者
特殊切削工具メーカー比較サイト編集部
おすすめの特殊切削工具メーカーを厳選してまとめた比較サイトです。特殊切削工具に関する基礎知識からメーカーを選ぶ際のポイントなども紹介しています。一般切削工具では対応が難しい形状の加工や生産効率アップの実現のため、特殊切削工具の導入を必要とする製造現場の担当者様に役立つ情報をまとめましたので、ぜひチェックしてください。