切削加工では、速度や切り込み量などの条件を正しく計算することが、精度、品質、生産性のすべてを左右します。とくに切削速度は、工具の摩耗や面粗さに関わる重要な要素です。
そこで今回は、切削速度の基本的な計算方法から、切削条件の決め方について解説していきます。現場で使える計算ツールも紹介しているので、ぜひ最後までご覧いただき、精度や生産効率の向上にご活用ください。
切削速度とは
切削速度とは、工具が被削材を切削する際に円周方向に移動する速度を示します。単位は「m/min(メートル毎分)」で、旋盤加工では被削材の外周、フライス加工では工具の刃先が移動する速さを意味します。
切削速度が高いほど加工効率は上がりますが、同時に工具摩耗や発熱も増加する点には注意が必要です。また、低すぎても加工精度に悪影響を与えるので、被削材、工具材質、加工方法などに応じて最適な速度を設定する必要があります。
切削速度の求め方

切削速度は、直径と回転数を用いて、次の式で求めます。
Vc=(π × D × n)÷1000
- Vc:切削速度(m/min)
- π:円周率(3.14)
- D:工具または被削材の直径(mm)
- n:主軸回転数(rpm)
反対に、切削速度から回転数を求める場合の式は、以下のとおりです。
n=(1000 × Vc)÷(π × D)
たとえば、被削材の直径D=50mm、切削速度Vc=120m/minのときは、次のように計算します。
n=(1000 × 120)÷(3.14 × 50)
n≒764 rpm
その他の切削条件の求め方
切削速度以外の求め方も確認しておきましょう。
送り速度
フライス加工やドリル加工などでは、以下の式で求めます。
F=n×Z×fz
- F:送り速度(mm/min)
- n:回転数(rpm)
- Z :刃数(刃の枚数)
- fz:一刃あたり送り量(mm/刃)
切り込み量
切削加工において刃物をどの深さ・幅まで入れるかを示す値です。1分間に削り取る量を見積もる式として、以下が使われます。
VR=F×ap×ae
- VR:除去体積(mm³/min)
- F :送り速度(mm/min)
- ap:切込み深さ(mm)
- ae:切込み幅(mm)
切込みが深いほど加工能率は高まりますが、工具への負荷や振動、発熱も増える点には注意が必要です。
切削条件を適切にするメリット

切削速度などを計算し、適切な切削条件を設定すると、以下のようなメリットが得られます。
加工精度が高まる
過剰な負荷が生じる切削条件で加工すると、振動やビビリが発生し、寸法精度、面粗さなどが悪化します。一方で切削速度や送りが不足している場合は、工具が被削材を押し潰すような切削となり、バリや塑性変形が発生する原因になり得ます。
こうしたトラブルを防ぐためには、最適な条件を設定して切削抵抗を安定させることが重要です。適正な条件設定には、機械の剛性や工具の特性を最大限に活かし、加工における品質のバラツキを抑える効果もあります。
加工時間が短縮できる
切削条件を最適化すると、加工時間を大幅に短縮することが可能です。被削材や工具材質に合わせて切削速度を適正化すれば、余分な送り回数、無駄な切込みなどを削減できます。
安定した条件下での加工では切りくずの排出性も改善されるので、停止や清掃にかかる時間を減らせるのも利点です。
工具寿命が延びる
適正な切削条件は、工具寿命を延ばすうえで重要な要素の一つです。切削速度が高すぎると刃先が急激に発熱し、摩耗やチッピングを招きます。
逆に速度が低すぎると、切りくずがうまく排出されず、そこに摩擦熱が蓄積して寿命を縮めてしまいます。最適な条件で加工できれば、安定した切削抵抗により、こうした負荷を軽減することが可能です。
切削条件の決め方
切削条件を決定する際には、以下の方法を用いるのが効果的です。
メーカーの推奨値に設定する
切削条件を決めるときに最も確実で安全な方法は、切削工具メーカーの推奨値を参考に設定することです。メーカーは、膨大な試験データをもとに、被削材の種類、工具材質、形状、コーティング別に最適な条件を提示しています。
工具のカタログやWebサイトにも一覧表形式で示されており、これに従うことで初期段階から安定した加工を実現できます。推奨値をそのまま採用するのが基本ですが、加工条件に合わせて微調整することも大切です。
加工条件が適切かどうかが不安な場合は、メーカーに問い合わせて確認するのが確実です。 現場での条件や使用目的を伝えることで、より具体的で信頼性の高いアドバイスを受けられます。
計算ツールを活用する
近年では、計算ツールや専用アプリを活用して設定する方法が主流になっています。切削工具メーカーの中には、自社工具に対応した計算機やスマホアプリを提供しているところもあり、工具ごとの最適条件を確認することが可能です。
こうしたツールを活用すれば、加工現場で即座に条件の変更ができるようになり、効率と精度、二つの面で大きなメリットがあります。
切削速度を計算できるツール

切削速度を計算できるツールには、以下のようなものが挙げられます。
エクセル
Microsoft Excelを使った切削速度の計算は、カスタマイズ性の高さが魅力です。加工現場では、速度や送りを自動計算できるテンプレートを自作するケースが多く見られます。
条件表や被削材ごとの推奨値をシート内に一覧化すれば、複数の加工条件を一元管理することも可能です。Excelを活用すれば、関数を使って自社の標準条件を登録する、マクロで自動判定するといった対応もできます。
ただし、活用するには一定の知識が求められるほか、入力ミスが起きやすい点には注意が必要です。
関数電卓
関数電卓は、シンプルながら非常に信頼性の高い切削条件計算ツールです。スマホやPCが使えない環境でも、基本式を覚えていれば即座に計算できます。
また、最近の関数電卓にはメモリ機能や履歴呼び出し機能があるので、同じ条件を何度も再利用することが可能です。モバイル機器が使えない環境や電波の届かない現場でも安定して使えるため、関数電卓は技術者の基本装備ともいえます。
ただし、計算式を間違って覚えていたり、数字を打ち間違えたりといったミスが起きやすいのが難点です。
切削速度計算尺
切削速度計算尺は、アナログながら直感的に操作できるため、信頼性の高いツールです。工具径、回転数、切削速度の関係が一目で分かるように印刷されたスライド式の定規で、電源不要で使える点が大きなメリットです。
使い方は簡単で、直径と任意の回転数に目盛りを合わせると、対応する切削速度が表示されます。値を即座に確認できるため、教育現場や技能検定で使われることが多いのも特徴です。
計算尺は、デジタルツールに比べて誤操作のリスクが少なく、計算の感覚を身につける教材としても有効です。
工具メーカーが提供する計算ツール
多くの工具メーカーでは、製品の性能を最大限に発揮できるよう、公式の切削条件計算ツールを提供しています。
【切削条件研削ツール】
これらのツールでは、工具径や刃数、被削材の種類などを入力すると、推奨値や上限値が表示されます。メーカーによってはスマホアプリを提供しているケースもあり、利用環境に応じてツールを選ぶことが可能です。
それぞれ算出できる値や操作性が異なるため、実際に使用感を確かめて、自社に合ったツールを選びましょう。
切削速度は適切に設定しよう
切削速度や回転数、送り速度などの条件は、加工品質と作業効率を左右する重要な要素です。正しい計算式を理解し、メーカーが推奨する値を基準に設定すれば、精度の高い加工と長い工具寿命、加工時間の短縮などを同時に実現できます。
また、工具メーカーのオンラインツールや関数電卓、自作のエクセルテンプレートなどを活用すれば、より自社の加工に適した数値を算出することが可能です。これらをうまく活用し、試行錯誤にかかる時間を削減して、安定した生産体制を構築しましょう。
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この記事の執筆者
特殊切削工具メーカー比較サイト編集部
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