【切削油】水溶性・不水溶性の違いと選び方のポイントを解説

切削油の利用を検討するにあたり、水溶性と不水溶性のどちらにするべきか悩む方は少なくありません。油剤はそれぞれ特徴が異なるため、自社の加工内容と目的に合わせて選定することが重要です。

そこで今回は、水溶性切削油と不水溶性切削油の違いと、選び方のポイントを解説していきます。使用の注意点もまとめているので、あわせてご覧ください。

もくじ

  1. 切削油の効果
  2. 【切削油】水溶性と不水溶性の違い
  3. 切削油選びのポイント
  4. 切削油を使用するときの注意点
  5. 切削油は適切に選ぼう

切削油の効果

まずは、切削加工における切削油の効果について確認しておきましょう。

潤滑

切削加工では、刃物と被削材の接触部分に強い摩擦が発生します。切削油を用いると、この摩擦を低減し、刃先の摩耗や焼き付きの発生を防ぐことが可能です。

切削油によって潤滑膜が形成され、金属同士の直接接触が避けられるため、滑らかな切削が実現します。その結果、次のような効果が得られるのも大きなメリットです。

  • 工具寿命の延長
  • 仕上げ面の品質向上
  • 加工精度の安定化
  • 生産効率の向上

冷却

切削中には、せん断変形や摩耗によって非常に高い熱が発生します。切削油はこの熱を吸収し、加工部位を効率的に冷却する役割を果たします。この冷却効果により、刃先の温度上昇が抑えられ、工具の熱変形や破損を防止することが可能です。

被削材の熱膨張も抑えられるため、寸法精度の安定にもつながります。

とくに、高速切削や深穴加工など、発熱が大きい条件においては冷却性能が加工品質を左右します。こうした条件で冷却性の高い切削油を使用すれば、安定した加工環境を維持できるでしょう。

洗浄

切削作業では、切りくずや金属粉が絶えず発生します。これらが加工面や工具に付着すると、仕上げ面を傷つけたり、摩耗を促進させたりしかねません。

切削油は、こうした切りくずや微細な粉を流すことができるため、加工部を常に清潔に保てるようになります。切りくずの排出がスムーズになれば、チップポケットや工具周辺への詰まりも防止できるでしょう。

防錆

切削後の金属表面は、加工熱や湿度の影響で、酸化・錆が発生しやすい状態になります。

切削油を用いると、金属の表面に薄い油膜を形成することができるため、空気中の水分や酸素との接触を防げます。とくに鉄系素材の加工においては、切削油の使用によって部品保管中の腐食を防止できる点が大きなメリットです。

機械設備自体の錆防止にも効果があるため、メンテナンスコストの削減にもつながります。

【切削油】水溶性と不水溶性の違い

水溶性と不水溶性切削油の主な違いは、下表のとおりです。

水溶性切削油 不水溶性切削油
性能 冷却性と安全性に優れる 潤滑性、防錆性に優れる
向いている加工 高速切削やアルミなど熱に弱い素材の加工 切削抵抗が大きい鉄系や難削材の加工
注意点 腐食しやすいため、適切な濃度管理が必要 発火リスクがあるため、適切な使用と管理が必要

それぞれの特徴を見ていきましょう。

水溶性切削油の特徴

水溶性切削油は、水に溶かして使用するタイプの油剤で、高い冷却性能を持つことが最大の特徴です。乳化剤や防錆剤、界面活性剤などを水で希釈して使用します。

油分が少ないため、発熱の大きい高速切削やアルミ・銅などの非鉄金属加工に適しています。切りくずや金属粉を洗い流す洗浄性にも優れている一方で、腐敗しやすく定期的な濃度管理や液交換が必要です。

水溶性切削油は、以下のように種類によって性質が異なるため、加工内容に合わせて適切に選びましょう。

A1種(エマルジョン) 油分と界面活性剤を含む乳化タイプの切削油で、潤滑性に優れているため、切削抵抗が大きい鋼材やステンレスなどの加工に適している
A2種(ソリュブル) 可溶性物質が含まれる半透明の切削油で、潤滑性と冷却性に優れ、幅広い被削材に対応可能
A3種(ソリューション) 油分が少ないタイプの切削液で冷却・洗浄性に優れており、高速切削やアルミ・銅などの非鉄金属加工に適している

不水溶性切削油の特徴

不水溶性切削油は、水で希釈せず、原液のまま使用するタイプの油剤です。潤滑性能に優れ、金属同士の接触を防ぐことで、刃先の摩耗を大幅に抑制します

ステンレスやチタンなど、切削抵抗が大きい難削材の切削に適しているほか、滑らかな加工面を得やすいため、ねじ切り、タップ加工、精密仕上げなどに用いられるのも特徴です。ただし、以下のようなデメリットもあるため、適切な利用と管理が求められます。

  • 煙や臭いが発生しやすい
  • 設備や作業環境の汚染につながりやすい
  • 発火のリスクがある

切削油選びのポイント

切削油を選ぶ際は、以下の点を意識するとよいでしょう。

被削材に適しているかどうか

切削油を選定する際には、被削材との相性を意識する必要があります。たとえば、鋳鉄の加工であれば潤滑性と防錆性が求められるので、不水溶性油が効果的です。

一方、アルミや銅のように熱伝導率が高く、冷却性を重視する加工には水溶性切削油が適しています。また、ステンレスやチタンなどの難削材は摩擦が大きいため、高圧噴射可能な不水溶性油や極圧添加剤を含むタイプなどが推奨されます。

被削材の硬さ、熱伝導率、化学的反応性によって最適な油種が異なるので、メーカーの推奨する用途などをしっかり確認したうえで選定しましょう

加工方法に合わせて選ぶ

切削油は、加工方法によっても求められる性能が異なります。

高速加工で熱が発生しやすいフライス加工や旋削では、冷却性能を重視した水溶性油が適しています。一方、摩擦が集中するタップ加工やねじ切り、ブローチ加工などでは、潤滑性の高い不水溶性油を使うのが効果的です。

穴あけ、リーマ加工では、切りくずの排出性と洗浄性も重要になります。このほか、加工速度や切削条件によっても最適な粘度、添加剤の種類が変わります。

加工方法に応じた切削油を選定することで、切削効率の向上、工具の摩耗低減、仕上げ面の品質安定の実現が可能です。

環境への影響も検討する

切削油を選定するうえでは、作業者や環境への配慮も必要です。

鉱油ベースの不水溶性油は潤滑性に優れる反面、煙や臭気、ミストによる健康被害の懸念があるほか、環境負荷も高い傾向にあります。そのため、近年は植物油をベースとした生分解性の高いエコタイプや、低刺激の水溶性切削油が注目されています

切削油の使用量削減やリサイクル、廃液処理のしやすさも考慮すべきポイントです。安全で持続可能な生産体制を構築するためには、性能だけでなく、環境適合性を重視した油剤選びが求められます。

切削油を使用するときの注意点

切削油は、健康への影響や不適切な管理による品質の低下といったリスクがあるため、適切に使用・管理しなければなりません。以下の注意点を確認し、安全に利用していきましょう。

飛散を抑える

切削油は、加工中に工具やワークへ噴射されるため、飛散を最小限に抑えることが重要です。飛散した油が周囲に付着すると、床面の滑りによる転倒事故や、設備・製品の汚染を引き起こす恐れがあります

これらを防ぐためには、作業者の安全と職場の衛生環境を両立する次のような対策が有効です。

  • ノズルの角度や圧力を適切に調整する
  • 防油カバーや飛散防止板を設置する
  • 集塵装置やミストコレクターを設置する

人体への付着に注意する

切削油が皮膚に触れると、炎症やかゆみといった皮膚トラブルを引き起こしかねません。とくに水溶性切削油には、防錆剤や界面活性剤が含まれているので、肌のバリア機能が弱くなり、刺激が伝わりやすくなることがあります。

作業時には手袋・保護メガネなどを着用し、直接皮膚に触れないようにする工夫が大切です。

適切に管理する

劣化した切削油の放置は、悪臭や腐敗の原因になります。これらを防ぎ、品質を保つためには、定期的な濃度測定、pH管理、フィルター清掃を行い、異常がある場合には早めに交換することが大切です。

このほか、保管時には直射日光や高温多湿を避け、密閉容器での保存が推奨されます。適切な管理は作業環境の衛生維持だけでなく、製品の質や設備寿命の延長にもつながります。

切削油は適切に選ぼう

切削油を用いると、加工時の熱を抑える冷却効果や、摩擦を抑制する潤滑効果などが得られるため、必要に応じて取り入れるのがおすすめです。

水溶性と不水溶性に分けられますが、製品によって特徴が異なるため、被削材や加工方法に合わせて適切なものを選んでください。使用にあたっては、作業者の安全に気を配るほか、作業環境にも配慮して適切な使用、管理を心掛けましょう。

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この記事の執筆者

特殊切削工具メーカー比較サイト編集部

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