PCD工具とは?特徴や主な用途、CBN工具との違いなど徹底解説

近年、加工現場での高精度・高効率化が求められる中で、工具の性能は飛躍的な進化を遂げています。その中でも特に注目されているのが「PCD工具」です。

PCD工具は、極めて高い硬度と耐摩耗性を持ち、超硬合金や硬脆性材など、非鉄金属や複合材料の加工において、その性能を発揮します。本記事では、PCD工具とは何かという基本から、その特徴や主な用途、そして同様に高硬度加工に用いられるCBN工具との違いについて、わかりやすく解説していきます。

もくじ

  1. PCD工具とは?
  2. PCD工具の主な特徴
  3. PCDが使用される主な工具の種類と用途
  4. CBN工具との違い
  5. PCD工具の注意点
  6. PCD工具を導入して生産効率を向上させよう

PCD工具とは?

PCD工具とは、人工ダイヤモンドの微結晶を金属の粉と混ぜて、高温・高圧で焼結した「多結晶焼結ダイヤモンド」(Polycrystalline Diamond)を、切削刃に使用した工具の総称です。PCDに含まれるダイヤモンドは多結晶であり、あらゆる方向からの力に強く、割れたり剥がれたりしにくいという性質を持っています。

PCD工具が発明された背景には、ものづくりの現場で求められる加工精度や効率の向上、そして素材の多様化があります。自動車や航空機、電子機器などの分野で、アルミ合金や銅、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの非鉄金属・複合材料の使用が増加しました。

これらの素材は一見加工しやすそうに見えますが、実際は切りくず処理の難しさや工具への溶着といった課題が多く、従来のハイス鋼や超硬工具では対応が難しくなっていました。こうした中、加工精度を長時間維持でき、かつ長寿命な工具へのニーズが高まり、人工ダイヤモンド技術の進化とともにPCDが誕生。

PCDは、優れた熱伝導性と非常に高い硬度を持ち、安定した品質での量産が可能なため、次世代の高性能工具材料として注目されるようになりました。PCD工具は、現代の精密・量産加工を支える重要な存在です。

PCD工具の主な特徴

PCD工具には、主に以下の特徴があります。

極めて高い硬度と耐摩耗性がある

PCD工具の最大の特徴は、超硬合金やハイス鋼をはるかに上回る非常に高い硬度と耐摩耗性を持つことです。これにより、工具寿命が非常に長く、同じ加工条件でも交換頻度を大幅に減らせます

特に、アルミ合金や樹脂、グラファイト、CFRPなどの非鉄金属や複合材料の加工においては、長時間安定した精度での加工が可能です。これにより、量産現場での生産性向上やコスト削減に大きく貢献します。

高精度加工や鏡面仕上げに適している

PCD工具は、刃先が非常に鋭く硬いため、加工時のバリや摩擦熱が少なく、優れた切削面品質を実現できます。具体的には、超硬合金やSUS系焼入れ鋼の鏡面仕上げや、硬脆材(炭化ケイ素やセラミックス)の高精度直彫り加工が可能です。

また、アルミやプラスチックなどの柔らかく粘り気のある素材でも刃先への溶着が少ないため、ツヤのある綺麗な仕上がり面が得られることも大きな特徴です。高精度かつ高品位な加工が安定して行える点は、電子部品や光学部品などの精密加工分野でも高く評価されています。

極めて小さいサイズに加工できる

PCD工具は、0.03Φほどの極めて小さいサイズに加工することが可能です。これは、PCD工具が非常に高い硬度と耐久性を有しているからであり、他の材質の工具では実現することは難しいでしょう。

また、極めて小さいサイズであっても、優れた耐折損性があるため、簡単に折損することはありません。スマートフォン部品、医療機器、精密金型、電子デバイスなど、極小部品の加工ニーズにも対応することが可能です。

再利用することができる

PCD工具は非常に硬く耐摩耗性に優れるため、摩耗しても刃先を研磨することで性能を回復させ、複数回にわたって使用することが可能です。これにより、トータルの工具コストを抑えることができるため、量産現場では経済的メリットが大きくなります。

ただし、PCDの研磨には専用設備と高度な技術が必要になるため、自社にリソースがない場合、対応できるメーカーに依頼しなければなりません。

PCDが使用される主な工具の種類と用途

PCDが主に利用される工具の種類と用途を、それぞれ紹介します。

工具の種類 主な用途
PCDエンドミル 銅やセラミックなどへの長時間加工、SUS系焼入れ鋼の鏡面仕上げなど
PCDリーマ あらゆる材質の多段穴加工
PCDバイト あらゆる材質の旋削加工
PCDドリル セラミックや非鉄金属などの難削材の穴あけ加工
PCDマイクロツール 超硬合金やSUS系焼入れ鋼の鏡面仕上げ、硬脆材の高精度研削加工など

PCDは、その高い硬度と耐摩耗性を活かして、超硬合金や硬脆材、非鉄金属などの高精度加工に適した工具として広く利用されています。用途に合わせて形状や仕様をカスタマイズできるため、オーダーメイドで製作されることも多いです。

CBN工具との違い

CBN工具とは、ホウ素や窒素で構成された人工化合物である「立方晶窒化ホウ素」(Cubic Boron Nitride)を、切削刃に使用した工具の総称です。硬度はPCD工具と比較すると劣りますが、超硬合金より硬いため、切削工具として優れた性能を持っています。

また、耐熱温度はPCD工具より優れているため、高温下での加工はCBN工具の方が重宝されています。そのため、CBN工具は高温になりやすい鉄系金属の切削加工が得意です

PCD工具とCBN工具の主な違いは、以下の表を参照してください。

比較項目 PCD工具 CBN工具
熱伝導性(W/m・k) 約2,000 約1,300
熱的安定性(大気中) 約700℃から酸化 約1,300℃まで安定
熱的安定性(真空中) 約1,400℃まで安定 約1,500℃まで安定
金属との反応性 鉄、ニッケル合金、炭素鋼と共存すると、約700℃から黒鉛化が始まる 鉄、ニッケル合金、炭素鋼とは、約1,350℃まで反応しない

PCD工具の注意点

PCD工具を使用する際は、以下の注意点を十分理解しておく必要があります。

鉄系金属の加工には適していない

PCD工具は鉄系金属の加工には適していません。その理由は、切削時の高温環境において、PCDの主成分である炭素(C)と鉄(Fe)が化学反応を起こしやすく、これにより刃先の急激な摩耗や劣化が発生するためです。

特に焼入れ鋼や鋳鉄などの鉄系金属では、加工中に高温になるため、この反応が加速され、PCDの長所である耐摩耗性や寿命が十分に発揮されません。そのため、鉄系金属の加工には、PCD工具ではなく、耐熱性の優れたCBN工具を使用することが一般的です。

ダイヤモンドの含有率で性質が変わる

PCD工具は、ダイヤモンドの含有率によってその性質が変わるということに注意が必要です。

ダイヤモンドの含有率が高いほど、硬度や耐摩耗性が高くなる一方で、靭性(割れにくさ)は低下します。逆に、含有率がやや低く結合材が多いタイプは、衝撃に強く欠けにくい性質になりますが、硬度は低くなります。

そのため、PCD工具の性能を最大限に引き出すためには、加工対象や使用条件に応じて、最適なダイヤモンド含有率を選定することが重要です。

初期導入コストが比較的高い

PCD工具は、一般的なハイス鋼や超硬工具に比べて、初期導入コストが比較的高いです。これは、PCDが人工ダイヤモンドを高温・高圧下で焼結して作られる高価な素材であり、製造にも高度な技術と設備が必要なためです。

そのため、単価としては他の工具よりも高くなります。ただし、PCD工具は非常に高い耐摩耗性と長寿命を持ち、再研磨も可能なため、長期的に見ると工具交換頻度が減り、トータルコストの削減につながるケースも多いです。

使用量や加工条件を考慮した上で、PCD工具の導入を検討することが重要です。

PCD工具を導入して生産効率を向上させよう

PCD工具は、優れた硬度と耐摩耗性により、非鉄金属や複合材料の高精度加工に最適な特殊工具です。長寿命で再研磨も可能なため、トータルコストの削減や生産効率の向上に大きく貢献します。

ただし、鉄系金属には不向きなどの特性を理解した上で、加工対象や目的に応じて正しく選定することが重要です。高度な加工品質や効率化を目指す現場にとって、PCD工具は非常に有力な選択肢となります。

PCD工具を導入して、生産性向上と高精度加工を実現しましょう。

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この記事の執筆者

特殊切削工具メーカー比較サイト編集部

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