【切削工具】TiNコーティングとは?効果やデメリットを詳しく解説

TiNコーティングは工具の摩耗や錆を防ぐほか、加工精度を高めるために有効です。ただ、コーティングにはさまざまな種類があるため、加工内容に応じて選ぶことが求められます。

そこで今回は、TiNコーティングの特徴やメリットについて解説していきます。工具やその加工条件に合わせた適切なコーティングが選べるよう、ぜひ最後までご覧ください。

もくじ

  1. 切削工具にコーティングを施す意味
  2. 切削工具のコーティング種類
  3. TiNコーティングとは
  4. TiNコーティングのメリット
  5. TiNコーティングのデメリット
  6. TiNコーティングで工具寿命を延ばす

切削工具にコーティングを施す意味

TiNをはじめ、切削工具に施すコーティングは、工具の性能を最大限に引き出し、加工の安定性を向上させるうえで欠かせません。たとえば、ドリルにコーティングを施すと切削中の摩擦、熱、溶着といったダメージを軽減でき、工具寿命を大幅に延ばすことが可能です。

コーティングによって切削抵抗が抑えられ、加工面がより滑らかで高精度になる点もメリットの1つ。多くのコーティングは再コートが可能なため、工具の再利用性が高まり、長期的なコスト削減にもつながります。

切削工具のコーティング種類

まずは、切削工具に用いられるコーティングの種類を確認しておきましょう。

Ti(チタン)系

チタン系コーティングは切削工具に最も広く使われている被膜で、以下のような種類があります。

  • TiN(窒化チタン)
  • TiAlN(窒化アルミチタン)
  • TiCN(炭化窒化チタン)

これらは比較的安価に成膜できるだけでなく、耐摩耗性と耐腐食性に優れ、高速切削や長時間の加工で効果を発揮します

TiAlNコーティングは800℃前後の高温下でも性能を維持するため、冷却が難しい状況やドライ加工でも活用することが可能です。TiCNは表面硬度が高く滑り性にも優れており、切削抵抗を軽減できます。

Cr(クロム)系

クロム系コーティングは工具に用いられる硬質薄膜のほか、装飾用メッキや日用雑貨などに採用されています

代表的なものとしてはCrN(窒化クロム)やCrAlN(窒化アルミクロム)などが挙げられます。CrAlNはアルミニウムで合金化した被膜で、1000℃の高温でも性能を維持できるのが特徴です。

最もポピュラーなのはCrNコーティング。摩擦係数が低く、切りくずの排出性を向上してくれるため溶着防止に役立ちます。耐腐食性にも優れており、腐食しやすい環境下での加工にも適しています。

DLC(非晶質硬質炭素膜)

DLC(Diamond-Like Carbon)はダイヤモンドに似た性質を持つ非晶質炭素の薄膜で、高い硬度と低摩擦性が特徴です。粘着性の高いアルミや銅、樹脂などの被削材を加工する際に効果を発揮し、溶着やバリの発生を抑制します。

ダイヤのように硬いため、相手材との間に摩擦による化学反応が起きにくいのも利点です。微細加工や高精度な加工にも適しており、医療機器、電子部品製造などに広く活用されています。

TiNコーティングとは

TiN(窒化チタン)コーティングは比較的ポピュラーなコーティングの1つで、切削工具や金型などの被膜として幅広く用いられています

外観はゴールドで視認性が高く、工具の摩耗状況が確認しやすいほか、見た目の華やかさから装飾として用いられるケースも多いです。

TiNコーティングは耐摩耗性や耐腐食性を向上してくれるため、工具だけでなく、医療機器や自動車部品のコーティングにも採用されています。

TiNコーティングのメリット

TiNコーティングには、以下のメリットがあります。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

耐久性が向上する

TiNコーティングはHv1,700~2,000と高い硬度があり、摩耗や欠損から工具を守ります。

繰り返し切削を行うと、工具の刃先は少しずつ摩耗していきます。しかし、TiNコーティングを施すことで、摩耗進行を大幅に遅らせることが可能です。

特に高速加工を行う工具においては、長期間にわたって切削性能を維持できるのが大きな利点となります。工具のメンテナンスや交換頻度が減るため、生産効率の向上やコスト削減も期待できるでしょう

比較的安価に入手できる

比較的安価である点も、TiNコーティングの大きなメリットです。製作に必要な技術が成熟しており、設備や材料の入手も容易なため、安定した価格で提供されています

初期費用・ランニングコストの両面で経済的なTiNコーティングは、コストを重視する中小製造業や試作段階の工具において、有効な選択肢といえるでしょう。

見た目が美しく識別しやすい

TiNコーティングは、美しい金色の見た目になることが多く、工具や金型に施されると視覚的に高級感のある印象を与えます。これは見た目の美しさだけにとどまらず、実用面でも有効に働きます。

複数種のコーティングが施された超硬ドリルを使い分けている現場では、TiNの金色によって工具の識別が容易になり、間違った工具を使うリスクを減らせるでしょう。

きれいな色合いは展示会やカタログなどでの印象アップにも貢献し、自社製品の価値を視覚的に伝える手段としても機能してくれます。

切削性能が向上する

TiNコーティングには切削時の摩擦を低減する働きがあるため、切削性能そのものの底上げに効果的です。超硬ドリルのような刃先の滑らかさが重要な工具では、切りくずが排出されやすくなり負荷が軽減されます。

加工面の仕上がりも良好になり、精密な寸法精度が求められる場面で効果を発揮します。一般的な鋼材の加工に適しており、コストパフォーマンスに優れた選択肢です。

腐食しにくくなる

TiNコーティングは工具の表面を緻密な膜で覆うため、腐食に対する抵抗が高まります

切削工具は、大気中の水分や塩化物、加工液などによって劣化したりサビが発生したりすることがあります。高価な精密工具にとっては特に、こうした腐食による性能低下は致命的です。

TiNコーティングによる保護があれば、腐食しやすい環境においても劣化リスクを軽減でき、工具寿命を延ばせます。

TiNコーティングのデメリット

TiNコーティングは、コスト面や汎用性で優れていますが、TiAlNやTiCNと比較すると、性能面で劣る点も少なくありません。

その1つに、耐熱性において、TiNは500〜600℃までが限界で、TiAlNの約800℃という高い耐熱温度には及ばない点が挙げられます。

耐熱性の面で劣るTiNコーティング。高速回転や連続加工といった過酷な条件下では、TiAlNやTiCNでコーティングした場合に比べて工具寿命が短くなる傾向があります。

加えてTiCNと比較すると、TiNは表面硬度と耐摩耗性において劣っており、硬質材料の加工ではTiCNのほうが有利です。

このように、より過酷な加工環境や高精度が求められる分野では、TiNコーティングの用途は限定されてしまいます

TiNコーティングで工具寿命を延ばす

TiN(窒化チタン)コーティングは多くの工具に用いられる一般的な被膜で、硬度の高いコーティングを比較的安価に施すことが可能です。耐摩耗性が向上し、溶着しにくくなるため、工具寿命を延ばす効果が期待できます。

金色に近い見た目は、美しいだけでなく摩耗の目安にもなるため、適切な頻度でメンテナンスや交換が行えます。ただし、加工内容によっては、ほかのコーティングのほうが有効なケースがあるため、状況に応じて使い分けましょう。

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この記事の執筆者

特殊切削工具メーカー比較サイト編集部

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