ドリルやエンドミル、タップといった切削工具の値上げが、製造現場に大きな影響を与え続けています。2022年以降、主要切削工具メーカーが相次いで価格改定を実施し、その波は2025〜2026年にかけても収まる気配を見せません。
本記事では、切削工具の値上げが続く構造的な背景から、主要メーカーの最新値上げ状況のまとめ、そして現場が今すぐ実践できるコスト対応策まで、現場担当者の視点で徹底解説します。工具調達コストの増加に頭を悩ませている方は、ぜひ参考にしてください。
※価格に関する情報は、全て2026年3月時点のものです。
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もくじ
切削工具の値上げが止まらない理由

なぜ切削工具はここまで値上がりを続けているのでしょうか。価格改定の通知を受け取るたびに「仕方ない」と感じながらも、その背景を深く理解している担当者は意外と少ないものです。まず、値上げを引き起こしている構造的な要因を整理しておきましょう。
- タングステン・コバルトの原材料高騰
- 中国の輸出規制による供給制約
- エネルギー・物流コストの上昇
- 人件費の増加
タングステン・コバルトの原材料高騰
超硬工具の主原料であるタングステンとコバルトの価格高騰が、切削工具の値上げに直結しています。切削工具の値上げ理由として、各メーカーが一様に挙げるのがこの2つのレアメタルです。
中国の輸出規制による供給制約
タングステン価格が高騰している背景には、中国による輸出規制という地政学的リスクが深く関係しています。タングステン鉱石の世界生産量のうち、80%以上が中国に集中しているため、中国の政策変更が直接的に国際価格を揺さぶります。
2025年2月、中国商務部は輸出管理を強化し、最終需要家と最終用途の厳格な審査を義務付けました。
これにより超硬ロッドや切削工具メーカーのコスト構造が圧迫されており、2025年内に複数回にわたり価格改定を集中実施するメーカーが続出しました。この影響は、2026年にかけてさらに顕在化するとみられています。
また、コバルトについても電気自動車(EV)の世界的な普及に伴い、電池材料としての需要が急拡大しており、切削工具の調達コストを押し上げる要因となっています。
エネルギー・物流コストの上昇
原材料費の高騰だけでなく、製造工程全体に関わるコストが多方面から圧力をかけています。電力費や燃料費などのエネルギーコストは、工具の製造プロセス全体の原価に響きます。さらに物流の混乱や輸送費の上昇も、安定供給コストを底上げしています。
これらは一時的な要因ではなく、世界的なインフレ環境の下で継続的に積み重なっているものです。
人件費の増加
近年の国内ベースアップの流れを受け、製造業における人件費の上昇も値上げの一因となっています。住友電工や不二越の価格改定通知でも、「人件費の上昇」が理由として明示されています。
メーカー各社は生産性向上や合理化によるコスト削減努力を続けていますが、こうした複合的なコスト増加は企業努力だけでは吸収しきれない水準に達しており、価格への転嫁が避けられない状況となっています。
工具別・素材別の値上げ傾向まとめ

各メーカーの公式価格改定情報をもとに、工具の種類と素材の切り口から値上げ傾向を整理しました。
素材別の値上げ傾向
素材の違いが値上げ幅に直結しています。大きく4つの素材区分で傾向が異なります。
- ハイス工具(高速度鋼)
- 超硬工具(WC-Co系)
- CBN・PCD工具(超高硬度工具)
- 合金素材・超硬ロッド
ハイス工具(高速度鋼)
近年の値上げ傾向で最も幅が大きいのがハイス(高速度鋼)工具です。三菱マテリアルは2025年10月受注分でハイス製品を一気に30%引き上げており、他メーカーでも10〜15%台の値上げが続いています。
ハイス工具の原料はタングステン・コバルト・モリブデン・バナジウムなどのレアメタルを多量に含む合金鋼です。
超硬工具と同様にタングステン・コバルト高騰の影響を受けながら、鉄スクラップ価格の上昇や電炉用黒鉛電極の高騰といった鋼材コスト全体の上昇も同時に受けるダブルパンチの構造にあります。これが超硬工具よりも大きな値上げ幅につながっています。
| メーカー | 対象・時期 | 値上げ率 |
|---|---|---|
| 三菱マテリアル | ハイス製品(2025年10月受注〜) | +30% |
| グーリング | ハイス製品(2026年2月9日受注〜) | +5%以上 |
| 不二越 | ハイスドリル・ハイスエンドミル(2025年7月出荷〜) | +8% |
| OSG | ハイスエンドミル・ハイスドリル(2025年12月受注〜) | +5% |
超硬工具(WC-Co系)
超硬工具はタングステン(炭化タングステン:WC)とコバルト(Co)を主原料とします。値上げ幅は工具の形状・構造によって異なり、ソリッド工具とインサートでは傾向に差が生まれています。
ソリッド工具は工具1本当たりの超硬使用量が多く、原料コスト高騰の影響が直接価格に反映されるため、値上げ幅は概ね10〜20%。一方、インサートは1枚あたりの超硬使用量が相対的に少なく、また刃先の交換サイクルが短いため価格弾力性も異なり、7〜10%に収まるケースが多くなっています。
| メーカー | 対象・時期 | 値上げ率(超硬) |
|---|---|---|
| ダイジェット工業 | ソリッド工具 (2026年3月受注〜) |
+20%(インサート+10%) |
| 住友電工 | ソリッドドリル・エンドミル (2026年1月受注〜) |
+10%以上(インサート+7%以上) |
| タンガロイ | ソリッドエンドミル・ドリル (2026年4月受注〜) |
+10%(その他切削工具+7%) |
| MOLDINO | 超硬製品全般 (2026年2月受注〜) |
+10%以上 |
| OSG | 超硬エンドミル・ドリル (2025年12月受注〜) |
+7% |
| 三菱マテリアル | 超硬インサート・エンドミル等 (2025年10月受注〜) |
+7% |
CBN・PCD工具(超高硬度工具)
CBN工具とPCD工具は、超硬とは異なる原料で作られます。しかし、ホルダー部分や製造コスト(エネルギー・人件費)の影響を受けるため、超硬工具と同水準の7〜15%程度の値上げが続いています。
| メーカー | 対象・時期 | 値上げ率 |
|---|---|---|
| グーリング | PCD・サーメット製品(2026年2月受注〜) | +10%以上 |
| ダイジェット工業 | ダイヤ・CBN工具(2026年3月受注〜) | +10%以上 |
| 三菱マテリアル | CBN・PCD製品(2025年10月受注〜) | +7% |
| OSG | ダイヤ・CBN(2025年12月受注〜) | +7% |
合金素材・超硬ロッド
切削工具の素材となる超硬合金素材(ストレート丸棒、穴付き丸棒など)は、加工後の製品よりも値上げ幅がさらに大きくなる傾向があります。
ダイジェット工業は2026年3月受注分でストレート丸棒等を70%以上と設定(なお当該製品は廃番予定)。住友電工も合金素材・バイトを15%以上の引き上げとしており、川上に近いほど価格変動が激しいことが読み取れます。
工具種別の値上げ傾向

素材区分に加え、工具の用途別に見るとより実務的な比較ができます。
- タップ
- ドリル
- エンドミル
- インサート(刃先交換チップ)
タップ
ねじ穴をつくるタップは、切削工具の中では値上げ幅が比較的穏やかな傾向が続いています。ハイス・超硬の違いはあるものの、多くのメーカーで5〜10%台に収まっています。
OSGはタップに強い専業色があり、2025年12月受注分でも5〜7%と抑えた設定です。ただし、今後のタングステン・鋼材価格動向次第で上振れする可能性があります。
| メーカー | 対象・時期 | 値上げ率(目安) |
|---|---|---|
| OSG | ハイス・SKS・超硬タップ(2025年12月〜) | 5〜7% |
| グーリング | タップ全般(2024年10月〜) | 10% |
| 不二越 | 標準品(2025年7月〜) | 3〜5% |
ドリル
ドリルは素材によって値上げ幅の差が最もはっきり現れる工具です。超硬ドリルは7〜20%、ハイスドリルはメーカーによっては30%近い値上げになるケースもあり、同じドリルでも素材の選択で受けるコスト影響が大きく変わります。
特にソリッド超硬ドリルは、タングステン価格高騰の影響を直接受けるため値上げ幅が大きく、住友電工・タンガロイ・ダイジェット工業はいずれもソリッドドリルを10%以上の値上げとしています。
エンドミル
エンドミルでもドリルと同様に、超硬エンドミルは7〜20%、ハイスエンドミルは5〜30%と素材間の差が大きく出ています。
特に三菱マテリアルのハイスエンドミルが30%値上げになった事例は業界で注目を集めました。MOLDINO・タンガロイ・住友電工などは超硬エンドミルを10%以上に設定しており、ハイエンドのソリッドエンドミルほど値上げ幅が大きくなる傾向があります。
インサート(刃先交換チップ)
ソリッド工具と比べると1枚当たりの超硬使用量が少ないため、相対的に値上げ幅は7〜10%台に収まるケースが多くなっています。
ただし、ダイジェット工業のように10%以上に設定するメーカーもあり、今後タングステン価格がさらに高止まりすれば、インサートにも上昇圧力が増す可能性があります。
主要切削工具メーカーの値上げ状況まとめ
値上げの背景を理解したところで、実際に各メーカーがいつ・どの程度の価格改定を行っているかを整理しておくことが重要です。調達計画や予算策定の判断材料として、以下の情報をご活用ください。
- オーエスジー株式会社(OSG)
- 住友電工ハードメタル株式会社
- 三菱マテリアル株式会社
- 株式会社不二越
- 株式会社MOLDINO
- 株式会社タンガロイ・京セラ株式会社ほか
オーエスジー株式会社(OSG)

タップや超硬ドリルなどの切削工具で国内トップクラスのシェアを誇るOSGは、2022年8月から段階的な値上げを実施しています。
2025年12月1日受注分(計画品)から価格改定を実施しており、タップ(ハイス・SKS・超硬)5〜7%、超硬エンドミル・超硬ドリル7%、圧造工具は10%以上の引き上げとなっています。
住友電工ハードメタル株式会社

「イゲタロイ」ブランドで知られる住友電工ハードメタルは、2022年・2024年・2026年と繰り返し価格改定を行っているメーカーの一つです。
2026年1月1日受注分から、合金素材・バイト製品を15%以上、ソリッドドリル・エンドミル製品を10%以上、超硬インサート製品を7%以上引き上げると発表しています。
参考:ハードメタル事業の製品価格改定について|住友電工ハードメタル株式会社
三菱マテリアル株式会社

三菱マテリアルは2022年10月の大規模値上げに続き、2025年10月1日受注分からも価格改定を実施しました。
超硬製品(インサート・ドリル・エンドミル等)とCBN・PCD製品がともに7%、ハイス製品は30%という大幅な引き上げとなっています。ハイス製品の値上げ幅が特に大きい点が、ユーザーにとって注目すべきポイントです。
株式会社不二越

不二越は2022年から2025年にかけて複数回の価格改定を実施しています。2025年7月1日出荷分からの価格改定では、ハイスドリル・ハイスエンドミルが8%、超硬ドリルが5〜8%、超硬エンドミルが3〜5%の値上げとなっています。
株式会社MOLDINO

日立ツールを母体とするMOLDINOも、繰り返し価格改定を行っています。2026年2月2日受注分から、エンドミル・ドリル・インサート・ホルダーといった超硬製品を10%以上、ホルダーやアーバーなどの鋼製品を5%以上値上げしています。
株式会社タンガロイ・京セラ株式会社ほか
上記メーカー以外にも、主要な切削工具メーカーが同様の流れで値上げを実施・予定しています。
| 株式会社タンガロイ | 2022年、2024年に続き、2026年4月1日受注分から価格改定を予定 |
|---|---|
| 京セラ株式会社 | 2026年1月、2026年3月30日受注分から価格改定を実施 |
| ダイジェット工業株式会社 | 2026年3月1日受注分から、標準品を10%〜最大40%値上げ (炭化タングステンの中国輸出規制を主因として明示) |
| ユニオンツール株式会社 | 2026年1月1日出荷分からPCB工具の価格改定を実施 |
このように、業界全体で値上げの波が連鎖しており、特定のメーカーだけの動向を追うだけでは全体像が掴みにくくなっています。調達担当者は複数メーカーの情報を横断的に把握することが求められます。
値上げが製造現場に与える影響
主要メーカーの値上げ状況が把握できたところで、それが製造現場に対してどのような影響をもたらしているかを確認しておきましょう。コスト面だけでなく、業務面にも及ぶ影響を正確に認識することが、的確な対応策を講じる第一歩となります。
コスト増加と価格転嫁の難しさ
切削工具の値上げは、加工コストの直接的な増加につながります。標準的な刃物であれば5〜20%程度の値上げが一般的ですが、特殊品では50%近い値上げになるケースも報告されています。
しかし工具費を自社の製品価格へ転嫁するのは容易ではありません。日刊工業新聞が報道した現場の声によれば、「工具が上がるからといって価格転嫁はできない」という声や「材料費・燃料費の上昇に合わせて交渉するしかない」という苦境が浮き彫りになっています。
コスト増加の一部を吸収しながら経営の安定を保つためには、工具費そのものを削減する発想の転換が求められます。
工具調達・納期への影響
価格面の問題に加え、超硬工具の入荷遅延という納期面の問題が現場を直撃することもあります。特にタングステン供給が制約される時期には、主要メーカーの工具が品薄になりやすく、代替品での対応を余儀なくされるケースも発生しています。
代替品への切り替えには、加工条件の見直しや試し加工のコストが発生するため、生産計画全体に影響が及ぶことも少なくありません。
切削工具の値上げに対する実践的な対応策

値上げの影響を最小限に抑えるために、製造現場が今すぐ取り組める対応策を具体的に紹介します。工具費の削減は、適切な視点と方法さえ持てば、十分に実現可能です。
工具の再研磨・再コーティングを活用する
値上げ対策として最も即効性が高いのが、使用済み工具の再研磨・再コーティングです。再研磨の費用は一般的に工具購入コストの5分の1〜10分の1程度とされており、Φ6以上の工具では新品購入よりも大幅にコストを下げられます。
重要なのは、工具が値上げになっても再研磨価格はほぼ据え置きになるという点です。砥石を繰り返し使用する再研磨の作業コストはインフレの影響を受けにくく、工具価格が上がれば上がるほど再研磨によるコストメリットは相対的に大きくなります。
まずは現在使用している工具が再研磨に対応しているかどうかを確認するところから始めると良いでしょう。
特殊切削工具で工程を集約する
複数の加工工程を1本の特殊工具に集約することで、使用する工具本数そのものを削減するのも有効な対策です。
複合形状のドリルやステップドリル、多段リーマのような工程集約型の特殊切削工具を導入することで、工具費の総額を抑えながら加工効率を同時に高めることができます。
汎用工具を複数本使用していた工程を1本の特殊工具で賄えれば、工具交換の回数が減り、段取り時間の短縮にもつながります。初期投資はかかりますが、トータルコストで見ると中長期的な削減効果が大きく、値上げの影響を吸収する有力な選択肢となります。
特殊切削工具を専門とするメーカーは、現場の加工条件や被削材に合わせたオーダーメイド設計に対応しており、まず試作品で効果を確認することも可能です。
工具調達ルートを見直す
工具の調達ルートを見直すことで、同じ工具でも実質的な調達コストを抑えられる場合があります。工具専門の商社やディストリビューターを活用することで、ボリュームディスカウントや特定メーカーとの取引条件の改善が期待できます。
また、特定のメーカーに集中していた調達先を複数に分散させることで、急な品薄や値上げリスクへの耐性を高めることにもつながります。ただし、メーカーを切り替える際は加工条件の再設定が必要になるため、慎重な検討が求められます。
値上げを機に工具運用を最適化しよう
切削工具の値上げは、タングステン・コバルトなどの原材料高騰、中国による輸出規制、エネルギーコストや人件費の上昇が重なった構造的な問題です。
値上げそのものを止めることは難しい状況ではありますが、再研磨の活用、特殊切削工具による工程集約、調達ルートの最適化といった対策によって、現場のコスト増加を抑えることは十分に可能です。
「値上げを受け入れるしかない」という受け身の姿勢から一歩踏み出し、工具の使い方・選び方・調達方法を根本から見直すことが、コスト競争力を維持するための鍵となります。
まず自社の工具使用状況を棚卸しし、再研磨や特殊工具の活用余地がないかを確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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この記事の執筆者
特殊切削工具メーカー比較サイト編集部
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