切削工具業界において、タングステン原料や超硬工具の価格高騰が深刻な問題となっています。2025年に入ってから、タングステン鉱石の価格は前年比で大きく上昇し、APT(パラタングステン酸アンモニウム)の価格も連動して急騰しました。
この価格動向は、切削工具メーカーや製造現場のコスト構造に大きな影響を与えており、今後の対応策が急務となっています。本記事では、タングステン・超硬価格が高騰している背景、最新の相場動向、そして製造現場が取るべき対策について詳しく解説します。
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もくじ
【タングステン】価格高騰の要因

タングステンの価格の急激な上昇には、複数の構造的な要因が複雑に絡み合っています。特に注目すべきは、供給側の制約と需要側の拡大という需給バランスの大きな変化です。
主要産地における供給制約の深刻化
中国はタングステン鉱石の世界最大産出国として知られていますが、近年は環境規制の強化により採掘活動が大幅に制限されています。江西省や湖南省といった主要産地では、環境保護監督・査察の継続的な深化により、複数の鉱山で採掘進度が鈍化しました。
さらに、夏季の極端な天候による採掘・輸送の制限や、安全生産特別検査の全面的な展開も重なり、市場への供給量が大きく減少しています。
こうした状況下において、多くの鉱山企業は今後さらに価格が上昇すると見込んでおり、タングステン鉱山保有業者は積極的な販売を控え、様子見の姿勢を強めています。
結果として、市場では低価格の供給源が見つかりにくくなり、タングステン価格が過去最高値を更新する事態となっているのです。
戦略物資としての重要性の高まり
タングステンは、その高い融点と硬度から航空宇宙、防衛、先端製造業において不可欠な戦略物資として位置づけられています。
近年の地政学的緊張の高まりにより、各国は重要鉱物の国内調達を優遇する施策を強化しており、タングステンは一次産品から戦略的に重要な材料へと昇格しました。
こうした背景から、企業は集中的な供給源への依存を減らすため、リサイクルや二次回収への投資を加速させています。タングステンの戦略的備蓄を進める動きも見られ、これが需給の逼迫にさらなる拍車をかけています。
工業製品全般における需要拡大
超硬工具の主原料であるタングステンカーバイドは、金属加工から電子部品製造まで、幅広い産業で使用されています。
- 自動車産業における電気自動車部品の生産拡大
- 半導体製造装置の需要増加
- 再生可能エネルギー関連設備の製造拡大
- 航空宇宙産業での高性能材料需要
こうした産業における旺盛な需要が、タングステン市場全体の価格形成に大きな影響を与えています。特に電気自動車部品における使用量の増加は、今後も継続的な需要増加要因として注視されています。
2025年から2026年にかけての価格推移
タングステン原料の価格動向は、切削工具業界全体のコスト構造を左右する重要な指標です。ここでは、主要なタングステン製品の最新価格動向を整理します。
黒タングステン精鉱の価格推移
2025年8月11日時点で、黒タングステン精鉱(品位65%以上)の平均価格は年初から37.65%上昇しており、7月単月だけでも11.21%の上昇率を記録しました。
中国を拠点にタングステン製品の開発・製造・販売を行う主要メーカーの2025年8月前半の長期契約価格を見ると、広東翔鷺タングステン業では品位55%以上の黒タングステン精鉱の単価が1トン当たり194,000元。7月後半より7,000元引き上げられています。
江西タングステン業控股集団の国家標準一級黒タングステン精鉱の指導価格は1トン当たり194,000元で、7月後半より12,000元の引き上げとなりました。※1元は約22円(2026年1月時点)
2026年1月時点では、65%鉄マンガン重石精鉱の価格は1トンあたり540,000人民元に達し、年初比17.4%上昇しています。この急激な価格上昇は、製造現場における原料調達コストの大幅増加を意味しています。
APT(パラタングステン酸アンモニウム)の高騰
超硬工具製造において重要な中間原料であるAPTの価格動向も注目されています。アモイタングステン業の8月前半のAPT長期購入価格は279,500元/トンで、前回のオファーより16,500元/トン引き上げられました。
崇義章源タングステン業のAPT価格は283,000元/トンで、前回のオファーより18,000元/トンの引き上げとなっています。2026年1月時点では、APTの価格は795,000人民元/トンに達し、年初から18.7%上昇しました。
このAPT価格の高騰は、複数の超硬合金企業が原料コストの圧力に苦しみ、価格調整書簡を発表する事態を招いています。工具などの製品価格が急速に上昇しにくいため、複数の超硬合金企業が高い原料価格をボイコットする共同声明を発表したことも報じられました。
参考:タングステン相場の高騰は原料企業から超硬合金企業に広がっている
超硬工具への価格転嫁の現状
タングステン原料価格の頻繁な引き上げにより、複数のタングステン企業は長期オファーを引き上げ続けています。しかし、最終製品である切削工具の価格には、これらのコスト増加が即座に反映されるわけではありません。
超硬合金メーカーは原料コスト上昇圧力に直面しながらも、顧客との長期契約や市場競争により、価格転嫁が困難な状況に置かれています。この結果、メーカーの利益率が圧迫され、一部では生産調整や製品ラインの見直しを迫られる企業も出てきています。
超硬工具市場における価格高騰の影響

タングステン価格の高騰は、超硬工具を使用する製造現場に多大な影響を及ぼしています。単なるコスト増加にとどまらず、調達戦略や生産計画の見直しを迫られる企業も少なくありません。
工具調達コストの急激な上昇
超硬工具の主原料であるタングステンカーバイドは、タングステン鉱石から精製されたAPTを経て製造されます。原料価格の上昇は、必然的に最終製品である超硬工具の価格上昇につながります。特に、以下のような超硬工具製品において影響が顕著です。
- エンドミルやドリルなどの回転工具
- 旋削用バイトやチップ
- 金型用パンチやダイス
- 耐摩耗部品全般
製造現場では、これまでと同じ予算で必要な工具を調達することが困難になり、生産コストの見直しを余儀なくされています。特に量産ラインで大量の超硬工具を使用する企業にとって、この影響は極めて深刻です。
納期遅延リスクの増大
価格高騰に加えて、供給不安も製造現場を悩ませる要因となっています。タングステン原料の入手が困難になることで、超硬工具メーカーの生産計画にも影響が出ています。
特殊形状の超硬工具や、特定の材質グレードを使用する工具については、通常よりも納期が長期化する傾向が見られます。こうした納期遅延は、製造ラインの停止や生産計画の変更を招き、二次的なコスト増加要因となっています。
代替材料への検討圧力
超硬工具の価格高騰を受けて、一部の製造現場では代替材料の検討も進んでいます。例えば、PCDやCBN工具への切り替え、あるいはセラミック工具の採用などです。
ただし、これらの代替材料にもそれぞれ制約があり、すべての加工条件で超硬工具の代わりとなるわけではありません。被削材や加工条件によっては、依然として超硬工具が最適な選択肢であり、コスト上昇を受け入れざるを得ないケースも多く存在します。
製造現場が取るべき価格高騰への対策
タングステン・超硬価格の高騰に対して、製造現場では戦略的な対応が求められています。単なるコスト削減だけでなく、長期的な視点での工具管理が重要となります。
工具寿命の最大化による使用量削減
超硬工具の価格が上昇している状況では、1本あたりの工具寿命を最大限に延ばすことが最も直接的な対策です。工具寿命を延ばすための具体策として、以下が挙げられます。
- 適切な切削条件の設定による工具負荷の最適化
- 定期的な工具状態のモニタリングと早期交換判断
- 切削油の適切な管理による摩耗抑制
- 再研磨サービスの積極的な活用
特に再研磨については、新品工具を購入する場合に比べて大幅なコスト削減が可能です。タングステン価格が高騰している現在、再研磨性を考慮して先端部にあらかじめ専用の加工が施された工具の導入も検討する価値があります。
適切なコーティング選定による性能向上
工具表面に各種コーティングを施すことで、耐摩耗性、耐熱性、潤滑性などが向上し、より難しい加工条件にも対応できるようになります。
再研磨と再コーティングを組み合わせれば、工具の性能を新品に近い状態まで回復させることが可能です。これにより、新品工具の購入頻度を大幅に削減でき、タングステン価格高騰の影響を緩和できます。
加工条件や被削材に応じて最適なコーティングを選定することで、工具寿命を従来比で数倍に延ばせる可能性もあります。
在庫管理戦略の見直し
価格変動が激しい状況下では、在庫管理戦略の見直しも重要です。ただし、単純な在庫積み増しは資金負担やスペース確保の問題を生むため、慎重な判断が必要です。有効な在庫管理のアプローチとして、以下が考えられます。
- 使用頻度の高い工具に絞った戦略的在庫確保
- サプライヤーとの長期契約による価格安定化
- JIT(Just-In-Time)と安全在庫のバランス調整
- 工具管理システムの導入による使用実績の見える化
工具メーカーとの密なコミュニケーションにより価格動向の情報を早期に入手し、適切なタイミングでの調達を行うことも効果的です。
今後のタングステン市場見通しと注意点

タングステン市場の今後の動向を予測することは容易ではありませんが、いくつかの重要なトレンドを把握しておくことが重要です。
短期的な価格動向の不透明性
約1年で価格が最大300%も高騰した局面を経て、現在のタングステン市場は先行きに対する警戒感に直面しています。
売り手は「さらなる値上がりを待つか、今のうちに利益を確定させるか」の判断に迫られ、買い手は仕入れコストの上昇への懸念から買い控えの動きが強まっています。
加えて、外部環境や投機資金の動きといった不確実な要素もあり、業界全体の取引は慎重かつ低調なままです。短期的には、需給バランスや地政学リスクによって、価格が乱高下する可能性に注意が必要です。
中長期的な構造変化
供給面では、リサイクル技術の進化により「使い終わった製品からタングステンを回収して再利用する」動きが加速します。これまでのように天然の鉱石だけに頼る必要が少しずつなくなっていくでしょう。
一方で、電気自動車や再生可能エネルギーといった成長分野での需要は、今後も右肩上がりで増えていく見込みです。「リサイクルで補える量」よりも「新しい需要」の方が大きければ供給不足は解消されず、価格は高い水準のまま推移する可能性が高いといえます。
調達戦略の多様化が鍵
単一のサプライヤーや調達ルートに依存するリスクが高まっている今、調達戦略の多様化が重要です。国内の信頼できるメーカーに加え海外メーカー、さらにはリサイクル業者など、複数のルートから工具を調達できる体制を整えることで、価格変動リスクを分散できます。
製造現場の技術者がタングステン市場の動向を理解し、価格変動を考慮した工具選定や使用方法の最適化を行うことも、持続可能なものづくりに不可欠な要素となっています。
価格高騰に負けない「持続可能な調達」と「現場力」
タングステン価格の高騰は、地政学リスクや構造的な需給変化を背景とした長期的な課題となっており、従来の調達モデルは転換期を迎えています。市場の不透明感が増す中、製造現場には工具寿命の最大化や再研磨の徹底といった、資源効率を高める対策が不可欠です。
同時に、特定の供給源に依存せず、海外ルートやリサイクル資源を組み合わせた調達の多様化を推し進める姿勢も求められます。技術部門と調達部門が連携して市場動向を注視し、変化に即応できる体制を整えることが、コスト競争力を維持する鍵となります。
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この記事の執筆者
特殊切削工具メーカー比較サイト編集部
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